大判例

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仙台高等裁判所 昭和29年(う)505号 判決

職権を以て調査するに原判決は挙示の証拠により被告人が戸澗三郎と共謀の上昭和二十九年三月十日午前八時頃釜石市鈴子町富士製鉄株式会社釜石製鉄所構内硫酸工場解体工事現場に於て同所長管理の古鉛板一枚を窃取したとの事実を認定している。しかし窃盗罪が既遂の域に達するには他人の支配内にあるものを、その支配を排して自己の支配内に移すことを要するものであるから窃盗犯人がその目的物件を工場構内から取出しても、その構内は構外から一般に人の自由に出入することができず、門扉、障壁、守衛等の設備があつてその障碍を排除しなければ、その物件を構外に搬出することができないような場合には、その目的物件を構外に搬出するか、構内であれば、それをいずれかに隠匿する等適宜の方法により、その所持を確保しない以上、未だその〓有者の事実上の支配を排除して自己の支配内に納めたものといえないから、たとえその目的物件を取出した場所から構内を相当距離運搬したとしても窃盗既遂を以て論ずるわけにはいかない。蓋しこの場合は構内全体にその管理者の支配が及んでおり、管理者のその物件に対する支配はなお存続していると解すべきだからである。本件について、これを考察するに本件記録及び原判決挙示の各証拠によると、被告人は戸澗三郎とともに昭和二十九年三月十日午前八時頃前記会社構内に大工として作業中同構内硫酸工場解体工事現場で幅六尺、長さ四尺、厚さ七、八分重量約二百瓩の古鉛板一枚を発見するや右三郎と共に之を窃取することを共謀し、之を同所から取出し、そこから約三百米位離れた同構内にあるタール工場の地下室へ運搬して来て、そこえ隠して置き時機をみて少しづつ構外に搬出する考えの下に右鉛板を特段な掩いもせず、リヤーカーに積み右硫酸工場解体現場から右タール工場へ向う途中前記製鉄所員に発見取上げられたものであり、かつ右製鉄所の周囲には外部から構内への侵入を防ぐための施設があり構内の各出入口には昼夜を通じ守衛が各常駐して工場の者の出入にも一々その許可を要するものであることが窺われるから、被告人等の右所為は窃盗未遂を以て論ずるを相当と認める。従つて窃盗既遂と認定した原判決には事実の誤認があり、これが判決に影響を及ぼすことが明らかであるから破棄を免れない。

よつて量刑不当の控訴趣意については後に自判の際自ら判断を加えることとなるから、ここでの判断を省略し刑事訴訟法第三百九十二条第二項第三百九十七条第三百八十二条により原判決を破棄し同法第四百条但し書に従い、当裁判所において更に次のとおり判決する。

(罪となるべき事実)

被告人は戸澗三郎と窃盗を共謀の上昭和二十九年三月十日午前八時頃釜石市鈴子町富士製鉄株式会社釜石製鉄所構内硫醗工場解体工事現場から同所長園田一夫管理にかかる古鉛板(縦約六尺、横約四尺、厚約七分、重さ約二百瓩)一枚を取り出しこれを十分の掩いもせずにリヤーカーに積み同構内タール工場地下室に運んで行く途中、同製鉄所員に発見せられ、窃盗の目的を遂げなかつたものである。

(法令の適用)

被告人の判示所為は刑法第二百三十五条第二百四十三条第六十条に該当するところ前記前科があるので同法第五十六条第一項第五十七条により累犯加重をした刑期範囲内で被告人を懲役六月に処し当審における訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項但し書により被告人に負担せしめないこととし主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鈴木禎次郎 裁判官 蓮見重治 裁判官 細野幸雄)

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